髪の毛の再生医療について

cell culture

髪の毛や体毛の再生技術と歯の再生技術は似ており、臨床に生かされれば失ったものが生えてくるという今までにない治療が可能になるため非常に興味がある分野です。現在でも歯や髪の毛の移植はありますが必ずドナーが必要ですのでできる人が限られてきます。

そこで毛包の再生がどのくらいまで進んでいるのかを知ることで同時に歯の再生の進歩も分かるため一石二鳥ですので今回はこの毛の再生技術に関して科学論文で検証してみます。

毛の再生技術

毛の再生はまず細胞を培養することから始まります。そして実際に毛の元である『毛包』が形成されたと報告されている技術には共通点があるように思いました。それは上皮細胞と間質系細胞(繊維芽細胞、血管内皮細胞、免疫細胞など)を単離して一緒に培養することです[1][2][3]。これらのタイプの違う細胞が相互作用して毛包再生を誘導すると考えられています[1]。

歯の再生技術

歯の再生も同様に上皮細胞と間質細胞を一緒に培養することで成功しています[2]。

歯の再生 Ikeda E et al.[2]

この結果をみると歯には形が様々あるため部位特異的な歯の再生はまだできていませんがエナメル質、象牙質など歯の基本構成はできているようでした。

免疫不全マウスの腎臓で育てる技術

このように上皮細胞と間質細胞がまじりあって培養され相互に作用させてできた細胞の混合物を皮膚にそのまま埋め込んでも毛ができていました。しかし、より完全な毛包ができてから移植する方が確実性が高いと考えられます。そのような画期的な方法も確立されており『腎被膜下移植法』と呼ばれています。これは培養した混合細胞を免疫不全状態にしたマウスの腎臓に埋め込んで『カプセル化』して育てる方法です[3]。そのカプセルの中ではヒト由来の毛包が形成されますので育ってきたら取り出して毛包を一つ一つ頭皮に移植すればいわけです。

腎被膜下移植法 Asakawa K et al.[3]

実際の臨床に応用するには培養した毛包や歯が癌化しないかなどの安全性も調べなくてはなりませんので実現はもう少し先のことかと思いますがここまで再生できているとは驚きでした。しかもその再生方法も細かい部分ではさまざまな方法の違いも考えられるため大学と企業の間で特許競争も起こっておりますます面白い分野だと感じました。

【参考文献】

  1. [CO-TRANSPLANTATION OF MOUSE EPIDERMIS AND DERMIS CELLS IN INDUCING HAIR FOLLICLE REGENERATION]. [Article in Chinese] Chen L et al., Zhongguo Xiu Fu Chong Jian Wai Ke Za Zhi. 2016 Apr;30(4):485-90.
  2.  Fully functional bioengineered tooth replacement as an organ replacement therapy. Ikeda E et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 2009 Aug 11;106(32):13475-80. doi: 10.1073/pnas.0902944106. Epub 2009 Aug 3.

  3. Hair organ regeneration via the bioengineered hair follicular unit transplantation. Asakawa K et al., Sci Rep. 2012;2:424. doi: 10.1038/srep00424. Epub 2012 May 28.